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 大学を卒業はしたけれど就職ができなかった私は、秋葉原の電気屋さんで仕事を得ました。この仕事も当時通い始めたスナックで知り合った常連のお客さんから紹介されたものでした。仕事探しまで酒がらみです。
 当時はウォークマンやポケットコンピューターが良く売れていた時代で、そのなかでも大ヒットしていたのは任天度が発売したファミコンでした。どの商品も店に置けば黙っていても売れていくような、今では考えられないほど景気のいい時代でした。
 景気がいい時は会社もおおらかなもので、昼休みにすし屋で一杯やっている販売員に上司も「飲み過ぎるなヨ!」っと苦笑いしながら目こぼしをしてくれていました。それを良いことに昼間から酒を飲むことを覚えた私は、徐々にお酒が仕事に影響を及ぼすようになっていきます。昼から飲んでほろ酔い気分で仕事をし、仕事が終われば駅のキヨスクでビールを買って同僚と駅の改札口廻りで立ち飲みし、ソコソコ出来上がったところで地元へ戻り、行きつけになっていたスナックへ直行していました。
 学生時代毎晩飲んで卒業できないかもしれないピンチに立たされ、教員採用試験もダメになったという過去はすでに古き良き思い出にしてしまっていた私は、性懲りもなくまた明け方まで飲む生活を続けていたのです。さらに今度は「自分で稼いだ金で飲んで何が悪い!」というアル中お得意の自己正当化する常套句を頑丈な鎧として身に付けてしまっていました。