←Tさんの場合(6)へ

 さてさて、カラオケだけでも飲みに行くとても大きな理由になっていた私ですが、そのほかにもいくつかその居酒屋に好奇心をくすぐられる宝物があったのです。
 その一つが、「大人の人たちとの会話」でした。まだ大学生だった私は居酒屋に来る大人の人たちの話しがとても新鮮で、聞いているだけで自分も大人の仲間入りをさせてもらっているような気分にしてもらえたのでした。
仕事帰りのサラリーマンの方の仕事の大変さやそんな中でもやっている大人の遊びの話しやOLの人たちの会社の裏話や学生とは一味違った恋愛話、中には裏の家業の方たちのナイショの話などなど、二十歳ソコソコの私が初めて経験する世界はとても素敵な世界でした。そんな世界に行くのが週に1回ではもったいない!と考える様になるのにたくさんの時間は必要ありませんでした。いつの間にやらその居酒屋の常連になっていったのです。
 しかし考えても見てください。バイトもしていない学生に毎日飲み歩くお金などあるはずがありません。なぜ飲めたのでしょうか? それは同級生や後輩にご馳走になっていたからです。ご馳走とはいい言葉で、実際のところ知り合いに金を出させて飲んでいたのです。周囲の人間に奢られて、金の負い目を作って生きていくのは結構きついことです。その人たちに頭が上がらなくなるのですから、いつもへこへこしてするようになってしまいます。飲みたいがために人に頭を下げ、自分の意見を言えない生活をハタチそこそこでするようになっていました。

Tさんの場合(8)へ→