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 地元の居酒屋で夜の大人の世界に入りびたりになっていた私は、飲み終わってから家に帰る時間がどんどん遅くなっていき、最初の頃は「10時までにはウチに帰らなきゃ!」と思っていたのが、「12時前にウチに着けばいいか!」になり、「あしたの授業に出られればイイや」になり、ついには「あしたの授業は休んでもまだ単位はとれる!」と午前様になるのを正当化していくのでした。
 帰宅する時間が遅くなる時に気なるのは親の目です。気付かれないようにソォ~ッと部屋に入るのですが、私が遅く帰っていることなどチャンとわかっている親は小言を言います。その場は神妙な顔をして聞いているのですが、頭の中では「今度は気付かれないようにしなきゃ」と、今夜飲みに行く段取りを考えている私でした。その段取りとはまず、金の工面です。目の前で頭から湯気を出して怒っている親の顔は、だんだん財布に見えてくるのです。
ひとしきり怒った親が疲れて寝静まった頃、足音を忍ばせてソォ~ッと親の枕もとを通り、しまってある財布に手を伸ばし中身を探るのです。千円や二千円では飲み代に足りません。一万円札を選んで財布から抜きます。飲むためなら他人のお金にも手を出す。やっぱりアル中ですネ!

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