しじみ汁
精神病院に2度入退院した後で、実家で父と二人暮らしが始まりましたが生活は大きく変わりました。
部屋の中で私が目につくところには酒が置かれなくなりました。台所には料理酒はありました。最初は料理に使うものとしか考えていませんでしたが、テレビ番組で「みりんは甘い酒、料理酒はしょっぱい酒って考えてください」と話しているのを聞いてしまいました。
「そうか、、、甘い酒としょっぱい酒か、、」と見方が変わって行きました。病院からの精神薬も飲み過ぎてしまうので父が管理していました。
しらふでいる時間はだんだんと辛くなっていきます。電話のベルで飛び上がるくらい驚いたり、ごみ捨てに出るだけでもきょろきょろとしてしまっていました。
洗濯をするだけでも面倒で、「こんな時酒があったらな~」「薬飲使ってたらぱっと出来るのに」と思うようになり頭の中はそればっかりになってしまいます。
テレビのコマーシャルでは美味しそうにビールを飲むシーンが強烈に残ります。また氷が入ったコップにウイスキーを注ぐときに出る音はノドボトケがひくひくしていました。
「なんだよ、なんだよ、テレビまでイライラさせる」なんて全てに腹が立って来たのです。
父と生活しながら私は仕事もせずに家にずっといたので、料理らしきものを作って父のご機嫌を取るようになりました。父は仕事から帰ると酒を飲みます。横でじっと見るしか出来なかったのですが、ある時に「お酒を飲む人にはしじみ汁が良いって言うから夕食に作るね」と父に言うと「しじみの臭みを取るために少し酒入れるといいんだ。」と言うので父が飲んでいた日本酒をもらいました。
料理にはほんの少ししか入れずに一気に飲み干したのです。そして「まだ貝が匂うみたい」とお代わりの酒をもらい飲み干しました。
それから何かと料理に使うからと酒をもらうようになったんです。酒の減りが早いことに父も疑うようになりました。「おまえ飲んでるんじゃないか?」と疑われるようになりました。そして「もう酒使わなくていい」とくれなくなりました。
なまじ酒を口にすることが多くなったので飲酒欲求がひどかったです。すぐに料理酒が気なるようになり飲みました。味はひどいものでした。けれど内臓にアルコールが染み渡るのがわかります。それで自分が落ち着くのですが、すぐに噴水のように嘔吐したのです。
みりんも同じでした。そして父には2度としじみ汁は出せなくなったんです。
あれからだいぶ時間を頂きました。いまでもスーパーでしじみを見ると思い出します。
今はプログラムのおかげで、お酒を使わなくてもしじみ汁が作れます。
ありがたいです。