←Kさんの場合をはじめから読む
←Kさんの場合(17)へ

 「クーラーがつけっぱなしなんです!一回家に帰してください!」閉鎖病棟で私は叫んでいました。実際酒を買いに出たままここにいて鍵もかけず、クーラーもつけたままだと思い出したのと、また拘束されるのが嫌なので逃げ出したい気持ちから騒いでいましたが、しばらくして観念して「家のことはいいので拘束だけは勘弁してください。」とお願いしました。しかし酒が抜けている訳でもなく、顔も名前も知っている看護婦さんにオムツをあてられることは勘弁してもらえませんでした。涙が出てとても情けなかったのを覚えています。
解毒をしてもらい閉鎖病棟から解放病棟へ移されました。二週間ぶりの入院患者達から「なんで帰って来たんだ」とか「Kちゃんなら大丈夫だと思ったんだけどなあ」と言われました。なぜだか(帰ってきた)感が強かったと思います。新しく引っ越したアパートよりも長い期間いたからだと思います。こんな感じで三回、四回と入退院を繰り返す人がいるのかなと思いました。しかし、とにかく早くアパートに帰らなければと思っていたので、外出許可が出てすぐにアパートに向かいました。古いアパートだからか、酔っぱらって出たからかは分かりませんが、玄関のドアは閉まりきっていませんでした。部屋に入り段ボールの山を抜けクーラーを止め、改めて部屋の惨状を見ました。段ボールの中の小さなスペースは空き缶だらけで前述したようにテレビはつながってなく、ラジカセの周りにはCDが散らばっていました。CDもうまく入れられなかったのだと思います。取り敢えず空き缶を片付け、替えの着替えや身の回りのものを段ボールから出しアパートから病院に戻りました。まだ他のものを段ボールから出す気力は部屋を見た時からなくなっていました。
前回の入院時よりもアパートは病院に近くなり、病院に自転車も乗って行ったので、後に行き来するのは楽でした。しかし元気に行き来する入院というのはおかしなもので、それだけ身体だけではなく精神の病気だから精神病院に入院というのは今になったら良くわかります。しかしこの時の私は自分の病気に気が付くまでまだ時間が必要でした。

Kさんの場合(19)へ→