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1990年代に邦画で「さらば愛しのやくざ」という映画が公開され、とても好きな映画でビデオソフトまで購入し、よく見ていました。主人公の元ボクサーのやくざが中華街で因縁の相手を射殺して逮捕され、パトカーに乗り込む時に手錠をされた両手を上に突き上げて野次馬の中にいた自分の子供にガッツポーズのように見せていたのが好きなシーンでした。
一人になって連続飲酒から抜け出せない時は何回も同じビデオやマンガをボーっと見ている中でこの映画の主人公みたいに刺されて死にたいとか、このまま寝ている間に死にたいとか、私の住んでいるアパートに隕石が落ちて一瞬で死ねないかなとか連続飲酒の中で「死」を考えるようになっていました。
もう今更生き続けていてもいいことはないと思い、独り言で何回も「死んじまおう」と呟いて酒を飲み続けていて、何年か前に人気バンドのギタリストが自殺かどうか判りませんが、亡くなった時の方法を真似て死んでやろうと思いドアノブにネクタイで首を吊ろうと考えました。真剣にネクタイを選び、死ぬ部屋も決めたのですが、「最後に残った金で飲みに行ってから死のう」と、あの映画の主人公みたいにバブル時代に買った黒のダブルのスーツを着て、夜なのにサングラスをかけて家の近所のバーに飲みに出かけました。今思うと何もかも「バカ」なのですが、この時の私はいろんなことに酔っていました。
 あらかた飲んだ帰り道に「どうなってもいいから最後に派手に」と私の中で何かが変わりアパートに帰って土足のまま部屋に上がり、飾ってあったモデルガンを手にいつも酒を買いに行っていた近所のコンビニに向かいました。
 自動ドアが開いた瞬間に弾は出ませんが、火薬で音が鳴るモデルガンを一発天井に向けて撃ちレジに向かい「金を出せ」と店員さんに銃口を向けました。店員さんはレジのお金が入っている引き出しをカウンターに投げました。私が一瞬お金の方を見ると「ウヮー!」と叫びながら店員さんがモデルガンを私から取り上げました。私は一瞬固まりましたが、そのまま店内の冷蔵庫からビールを持ってきて「警察を呼べ!」と言いビールをレジに通し、料金を払いその場で飲み始めました。時間は覚えていませんが、すぐにコンビニの窓の外がいっぱいの赤色灯で光っていました。

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